横浜日劇〜遙かな時代の階段を
「私立探偵 濱マイク」シリーズの撮影舞台にもなった映画館「横浜日劇」が本日で閉館となる。
京浜急行の黄金町駅を降り、大岡川沿いを歩くと、昔ながらの風景がそこにある。
子供の頃は、足を踏み入れてはいけないような、ハマの「裏通り」。
川向こうは、つい最近まで戦後からの赤線の店がずら〜っと並び、夜はとても徒歩では歩ける雰囲気ではなかった。
観光客がたくさん訪れる、近代的な横浜の臨海地区が、「陽」ならば、横浜日劇を囲むこの付近は「陰」。
日が暮れる前なら、そんな「横濱の裏」の風景を見ながらの散歩は、小ギレイな「陽」の地区よりも、居心地がよかった。
めまぐるしく変わっていく「最先端の商業地区」ではなく、そこにはいつもの「時代に取り残された風景」があったから。

本日最後の上映は「沈黙の聖戦」「キャットウーマン」「スカイキャプテン・ワールド・オブ・トゥモロー」の三本たて。
上映中のカンバンの上には、いつもはない赤いカンバンが。
「永い間、誠にありがとうございました。大変残念ですが、当横浜日劇は2月18日をもって閉館することになりました。」
入り口の横には、いつもは上映作品のポスターが貼ってあるのに、「私立探偵 濱マイク」シリーズのポスターが。
建物の横にある上映作品のポスターが貼ってあるスペースも、数々の洋画のポスターで埋め尽くされている。
映画館のまわりには、閉館をおしみ、写真を撮っているたくさんの人たち。
「平日 女性 1000円」のチケットを買い、中に入る。すでに「沈黙の聖戦」の上映は始まっていた。
暗い中席を見回すと、半分くらいは埋まっているけど、ひとりぽつんと席にすわって爆睡しているおじさんがいた。
子供の頃はこういう人たちを見て、映画館に来てるのに、なんで映画を観ないんだろう? って不思議だったけど、今となってはこれが「横浜日劇」の風景だなぁ…って思い、ほんの少しうれしくなった。
最後の上映に近づくにつれ、観客は増えてきた。
「キャットウーマン」を観た後の休憩時間は、最終上映の前の最後の休憩時間。
おなかがすいたので、いつものようにロビーでポップコーンを注文した。
ケースの中に、少しだけ入ってるポップコーンは、もう数人分しかなさそうだ。
身なりのいい従業員が、やたらていねいに時間をかけて、ぎりぎりまでカップにつめてくれた。
おつりを受け取って席に向うと、後ろから次の人もポップコーンを注文する声が。
「すみません。カップがなくなってしまったので、ポップコーンはもう終わりなんですよ。」
横浜日劇の最後のポップコーンを落とさぬように劇場に入ると、席はほとんど埋まっていた。
ブーーーーー
ちょっと音がひずんでいる耳障りなベルの音。
最後の上映「スカイキャプテン・ワールド・オブ・トゥモロー」がはじまった。
コメディ的な要素たっぷりのこの作品では、劇場は何度も笑いに包まれる。
衝撃(笑撃?)のラストシーンでは、劇場は大爆笑。
そして、とうとう最後の幕が閉じた。
なりやまない拍手に、劇場内を撮影する人々・・。
寂しい気持ちがいっぱいになりながらも、劇場の外に出ると、そこには劇場内よりもたくさんの人、人、人。
観客が退場した後に、従業員の簡単なあいさつ…、そしてシャッターは下ろされ、
「CINEMASCOPE NICHIGEKI」のネオンが、消灯した。
情緒ある横浜の象徴「横浜日劇」は、遙かな時代への階段を、1段ずつ登り始めた。
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